技術者、研究者の給料と生涯年収

技術が進歩するにつれて、技術者、研究者は、労力に見合った給料と生涯年収が得られなくなる傾向にあります。

年収1000万円を超える給料を出すのは、科学技術の進歩の影響を受けにくい文系企業(特に国内規制産業)が多いのです。

一方、年収300〜400万円の給料のところに、高度な理系企業がたくさんあります。

技術者、研究者は、通常は理系企業(製造業、技術系企業)に就職します。

すなわち、技術が進歩するにつれて、技術者、研究者はどんどん割の悪い職業となっていくのです。よって、技術者、研究者の地位向上が必要になります。


I.科学技術が進歩すれば、技術者、研究者の労力当たりの給料と生涯年収は低くなる

1.科学技術の進歩は、技術者、研究者の地位向上につながらない。むしろ、技術者、研究者の地位を引き下げる

 技術者、研究者が高度なことをやっているか否かは、給料、生涯年収とは関係がありません。

 「科学技術はどんどん進歩していくから、技術者、研究者の給料、生涯年収は高くなっていく」という考え方は正しくありません。

 その証拠に、年収1000万円を超える給料を出す企業は、科学技術の進歩の影響を受けにくい文系企業に多いのです。

 特に、さまざまな規制で守られた規制産業に多いのです。

 逆に、年収300〜400万円の給料のところには、高度な技術系企業がたくさんあります。

 すなわち、技術者、研究者が就職することの多い理系企業です。
 
 技術者、研究者の給料、生涯年収は、どれだけ技術的に高度なことをやっているかではなく、競争がどれだけ制限されて独占が認められているかに大きく依存しています。

 すなわち、国内規制産業に勤めているのか、国際競争にさらされている企業に勤めているのかが影響します。

 技術者、研究者は、製造業などの理系企業に行くことが多いので、給料、生涯年収が低くなる傾向があります。

 たとえば、理系の優良企業に勤める技術者も、規制産業であるテレビ局に勤める文系の人には、給料では及びません。

 年齢にもよりますが、前者は700〜800万円程度であるのに対し、後者は1000万円を超えます。

 すなわち、給料、生涯年収では、

   規制産業の文系企業 > 優良な理系企業

 
という図式が成り立ちます(もちろん、個々の企業により例外はあります)。

 テレビのチャンネルは、通常は数個(4、6、8、10、12)に制限されています(公共放送、衛星放送等を除く)。だから、民間のテレビ局の地位は極めて高くなります。広告を出したい企業は無数にあるが、チャンネルは数個だからです。

 よって、年収1000万円を超える社員を養えるだけの余裕ができるのです。

 理系企業には限界があります。理系企業が世界的な優良企業になっても、理系企業である限り、規制産業の文系企業ほどは、従業員に高い給料、年収を確保するほどの経済的な余裕を持つことは難しいでしょう。

 このような意味では、理系企業の地位が低いのです。製造業の地位向上理系企業の地位向上 が必要です。

 理系企業の地位が低いことが、技術者、研究者の給料、生涯年収が低いことにつながるのです。

 もっとも、テレビ局も、インターネットと放送が融合して競争が激しくなれば、従業員の給料、生涯年収が低下するかもしれません。

 すなわち、競争のない独占状態(ないし寡占状態)こそが、従業員の給料、生涯年収を高くする決め手なのです。

2.科学技術の進歩は、技術者、研究者の苦労を増大させ、労力に見合った給料、生涯年収を得られなくする

 科学技術が進歩すると、技術者、研究者の苦労を増大させます。

 文系が一部を除き比較的余裕がある大学生活を送るのに、理系は難しい勉強をしっかりしなければならなくなります。

 さらに、理系の場合、修士に進むことが多くなっています。また、技術者、研究者の分野によっては、6年制になっていくのです。

 理系は、時代とともに、どんどん技術者、研究者になるまでの期間が長くなっていきます。これに対し、文系は今でも大半が学部で就職です。

 科学技術が進歩すれば、理系だけ、働けるようになるまでの期間が長くなるのです。その間は働けないばかりか、学費を払うことになるので、理系の生涯年収は低くなります。

 たとえば、修士に進んだ理系と、学士で就職した文系を比べて見ましょう。

 修士に進んで技術者になったAさんは、修士にいかずに働けば得られた400万円(退職金増加分等を含む)と学費100万円の合計500万円を2年分失います。すなわち、生涯年収で1000万円損をした状態から社会人としての人生が始まります。

 一方、学士で就職した文系のBさんは、その2年間に規制産業で年に500万円(退職金増加分等を含む)の給料を2年間得ました。

 すでに、

 1200万円

 もの生涯年収の差が、AさんとBさんとの間にはついています。

 その間に、Aさんは6年間厳しい勉学生活を送り、Bさんは大学生活を4年間満喫した後、2年間厳しい就労体験をしました。

 AさんとBさんとの間には大きな差がついてしまうのです。

 その後、Bさんは厳しい仕事ながらも、少しずつ経験を積んでいきました。そして、管理職になって大きな生涯年収を得ました。

 一方、Aさんは厳しい仕事で苦労して技術を勉強し続けましたが、中年になって技術の進歩についていけなくなり、管理職にもなれませんでした。

 AさんとBさんとの生涯年収には格差がついてしまいました。いわゆる文理格差 です。

 科学技術の進歩が、Aさんの負担を重くしたのです。

3.何もしなければ、技術の進歩とともに、技術者、研究者は割が悪くなっていくので、対策が必要である

 このように、科学技術が進歩するとともに、理系は割が悪くなっていきます。

 最初の1200万円と大学生活の差を見れば、うんざりして理系離れをする人も出るでしょう。

 さらに、「技術者、研究者は、出世しても工場長どまりだ 」という考え方が、学生を理系離れさせます。

 実際には、技術者、研究者でも、社長や役員になる人もいます。しかし、文系よりも数が少ないことは事実でしょう。

 何らかの対策をして、理系離れを止める必要があるでしょう。

 対策としては、「清貧の思想」というのがありました。「技術者、研究者は、お金などを求めるのはいけないことだ 」という思想です。

 すなわち、「技術者、研究者の給料、生涯年収は低くても、技術が面白いから良いではないか 」という思想です。

 たしかに、技術者、研究者には、お金や地位に無頓着な人もいます。

 しかし、この思想が技術者に行き渡って満足しているのかどうかは、理工系の地位向上の会のアンケート を見るかぎり否定的です。

 「清貧の思想」は、対策になっていないと思われます。 


II.技術者、研究者の給料と生涯年収を高くする方法

1.技術者、研究者の給料と生涯年収は、競争の制限の度合いによっている

 規制産業において、給料と生涯年収が高いのはなぜでしょうか。

 それは、競争が制限され、独占の度合いが高いからです。

 よって、技術者、研究者の地位を高めるには、理系企業の競争を制限し、独占の度合いを高めることが、考えられます。

 独占の度合いを高める方法は、(1)規制、(2)談合、(3)特許、があります。

2.規制について

 規制については、文系企業では多くとられています。

 4、6、8、10、12以外のチャンネルに、次々に色々な企業が参入するということはありません。

 たとえば、9、13、21、24チャンネルがテレビに映ることはありません。何年たっても、同じチャンネルです。

 有料なら衛星放送、ケーブルテレビ等はありますが、多くの人が見る上記5つのチャンネルには、参入が困難となっています。

 テレビ広告をしたい企業は、日本に無数にありますが、主要なチャンネルは5つしかありません。

 だからテレビ局は大きな利益を得ることができます。

 同じような規制をして、たとえばソフトウェア会社は日本に5つしか許さないとすれば、ソフトウェア技術者の給料、年収は上がるでしょう。

 しかし、規制をすると、多くの場合、規制産業の競争力は落ちてしまいます。

 そうすると、ソフトウェア会社は、海外のソフトウェア会社に負けてしまいます。

 規制は、必要があるから文系企業には認められていますが、むやみに規制をすれば、産業の効率を下げ、競争力を落としてしまうのです。

 だから、規制産業は、外国と国際競争をしていない業種にしか広範に認めることは困難です。

 文系企業の方が、外国と国際競争をしていないことが多いのです。

 だから、文系企業には広範な規制が認められ、文系企業の地位は高くなります。

 理系企業には規制は認めにくいのです。

 理系企業の効率が下がり、競争力が下がると、外貨を獲得できなくなり、日本がだめになってしまうからです。

 よって、理系企業の地位を規制によって高めることは困難です。

3.談合について

 談合については、かつては文系企業、理系企業とも見られました。

 しかし、談合は悪いことです。

 規制は、規制すべき理由(公益性等)がある場合にはむしろ好ましい場合がありますが、談合はだめです。

 よって、理系企業の地位を談合によって高めることは問題外です。

4.特許について

 独占を認める方法として、多くの規制や談合は、理系企業に認めるのは困難です。

 そこで、理系企業の地位を上げるには、特許によることになります。

 特許は独占を認めるものですが、技術の進歩と引き換えとなっているので、むしろ競争力を高めます。

 また、特許は国際的に取得できるので、外国企業との競争の問題もありません。

 理系企業の地位を、特許によって向上させ、技術者、研究者の地位を引き上げることが重要です。

 優れた技術を開発した企業には、ある分野を特許で独占させるべきでしょう。

 理系企業がある分野を特許で独占できれば、技術者、研究者に高い給料、生涯年収を払う余裕が出てくるのです。


III.公立の研究機関に勤める研究者の給料と生涯年収を高くする方法

1.基礎科学の研究者の給料と生涯年収を高めるには

 以上は、技術者や、応用研究の研究者の場合です。

 しかし、基礎科学の研究者の場合、民間ではなく公立の研究機関に勤めることがあり、特許や市場原理の対象となりにくいことがあります。

 この場合、賞の創設と、科学技術予算の増大の役割が大きくなります。

2.賞の創設

 ノーベル賞が、基礎科学の研究者の地位を高めていることに異論はないでしょう。

 賞の創設は、基礎科学の研究者の地位を向上させます。

 日本は、世界人類のために、多額の賞金の賞を作るべきです。

 日本は、ものすごい資金力を持っています。

 日本は、世界の第2の資金力を有する団体と言ってもよいでしょう。

 その資金力は、とてつもない額です。

 日本は、ノーベル財団をはるかに超える資金を投入することができます。

 これを、つまらない目的に使うか、科学技術の進歩と世界の人類への貢献という良き目的のために使うかが問われているのです。

 基礎研究をただ乗りしているなどという批判を受ける国にしてはならないでしょう。

 科学技術振興の秘策−科学者、技術者の年収1億円1万人計画 でも述べましたが、国が莫大な資金を投入して、技術者、科学者の地位を高めることが必要です。

 そのような政策を実行するために、理系の連帯が必要になるのです。

3.科学技術予算の増大

 そして、科学技術予算を、技術者、研究者に直接給付することが重要です。

 この点についても、科学者、技術者の年収1億円1万人計画で述べました。

 研究費(金)、研究設備(物)だけではなく、研究者(人)に資金を投入することが重要です。

 研究とは、結局のところ、金や物がやるものではなく、研究者(人)がやるものだからです。

 この点、科学技術政策を動かせる立場にある人を、理系の連帯 に加える必要があります。

 研究費を出して、立派な研究設備を作れば、立派な研究が出てくると思っている人もいます。

 科学技術政策を動かす人が、万が一そのような考えを持っていると困ったことになるでしょう。

 研究者の地位を低くしたら、優秀な人材の理系離れが生じ、立派な研究は出てこないでしょう。

 研究費(金)、研究設備(物)だけではなく、研究者(人)に資金を投入することが重要です。

 すなわち、研究者の給料、生涯年収を引き上げる必要があります


IV.理系の連帯

 技術者、研究者の給料、生涯年収を高くすることは、日本の将来にとって重要です。

 また、科学技術立国をなしとげることは、日本全体の利益になるだけではなく、世界全体の利益になることです。

 それは、先進国の人のためだけではなく、発展途上国の貧困の緩和 のためにもなるのです。

 技術者、研究者の給料、生涯年収を高くする運動は、「技術者、研究者の自分勝手な欲望 」に基づく運動ではないのです。

 科学技術の進歩は、すべての人のためのものです。だから、文系を含めて理工系の地位向上運動を行なうことが必要になるのです。

 文系の人も、技術者、研究者の給料と生涯年収を引き上げることによって大きな利益を得ることができるのです。

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